なんとも重い作品でした。罪と罰。償い。そして死刑制度などなど、様々なことについて考えさせられました。
ペット葬儀社を営む中原の元へ、別れた妻が殺害されたと刑事が訪れる。その刑事は、以前娘が殺害された時の担当刑事でもあり・・・。
最初は娘の殺害と元妻の殺害が何か関係があって、主人公である中原が追いつめられていく・・・というような展開を予想していたんですが、これがまた予想外の方向へ進んでいきました。突き詰めていくと、元妻と過去の娘の事件が全くの無関係ということではないんですけど、それよりも何よりも、罪と罰について様々なことを考えさせられ、それに翻弄される人々に何とも堪らない気持ちにさせられた作品でした。
残虐な事件が起こると、その加害者に対して「死刑になってもしょうがない」と、そんな気持ちになります。それだけのことをしたんだから、自分も同じ立場(?)になってみればいいんだと、そんな風に思ってきました。でも、その気持ちが大きく揺らいでしまいました。それが、果たして加害者にとって”罰”になるのだろうか。「償う」という気持ちは、誰かに強制されたからと言って湧いてくるものではないんですよね。そして、何を”罰”と感じるかも、それぞれ本人の受け止め方次第だということで・・・。被害者家族の思い通りに”罰”が与えられ、もしそれが死刑であったとしても、それがどれだけ加害者へのダメージになっているのかというのは、その加害者個々人によって違っている。それをもし被害者家族が知ってしまったら・・・。私がその立場だったならば、虚しいという言葉では到底、表せない感情に押しつぶされてしまいそうな気がします。
上手く言葉に表せませんが・・・。
それにしても、殺害された元妻の小夜子の行動は、どうだったんだろうと考えてしまいます。もちろん、気持ちも分からなくはないけれど、20年もずっと後悔と罪の呵責に押しつぶされそうになっていた彼らに、それ以上を求めるというのは、どう考えても彼女の気持ちには寄り添えないものがあります。そこまでする必要があるのかと、そこまで強要する権利があるのかと、もし、彼女の近くにいたならば詰め寄っていたかもしれません。彼らは十分に罰を受け、そして償ってきたように思うから。もちろん、彼らの犯した罪は罪だし、赦されるものではないとは思いますけどね。でも・・・と思ってしまいます。
こう思うのは、私の家族が被害者になったことがないからなのかもしれませんが・・・。
物語としては、面白くぐいぐいと引き込まれて読みましたが、様々なことを考えさせられ、なんとも後味の悪い読書となりました。
(2015.04.25 読了)
2015年05月06日
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虚ろな十字架 東野圭吾
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Weblog: 苗坊の徒然日記
Tracked: 2015-05-06 10:47
色々考えさせられるお話でしたねー。
私個人の意見ですが、小夜子は深入りしすぎたのだと思いました。
自分の過去の事ももちろんありますけど、でも2人は十分罪を償ったと思います。過去に苛まれて悩んだり、医者になってたくさんの人を救おうとしたり。言い方はなんですが、出頭するだけが罪を償うということではないと思います。20年は長いですよね。
最後、見つからなかったのは2人がもう赦されたからだと思って読み終えました。
本当に色々と考えさせらるお話でした。
私も小夜子については同意見です。自分が関係している事件ならいいですが、そうではない訳で。ましてや彼らの20年を思うと…。確かに罪は罪だけど、もういいんじゃないの?と思ってしまいました。