面白かった。
事実上の左遷で尾張藩の「御松茸同心」を拝命した藩士が主人公なんだけど、彼だけでなく、彼の眼を通して、尾張藩主であった徳川宗春公の姿が描かれる。尾張藩士の小四郎の物語であると同時に、宗春公の物語でもありました。
江戸中期、尾張藩士の小四郎は算術が得意で、それを生かして藩の財政立て直しを夢見ていた。ところが、意に反して「御松茸同心」を拝命することに。当時、松茸は幕府への貴重な献上品であったが、この役職はどう考えても左遷。江戸生まれの小四郎が尾張の山へ赴任し、松茸不作の原因を探る日々が始まるが・・・。
意に染まないお役目でも藩命には逆らえない。江戸生まれの小四郎が屈託を抱えながら国許である尾張に赴き、お役目の真相を目の当たりにしたときの驚き。その前の、使えない上司への反発など、どれもこれも、多かれ少なかれ、誰でも経験したことがあるんじゃなかなぁと思います。が、要は、その時に自分がどうするかが大事なんですよね。まぁ、そんなこと言われなくても分かってるんですが、そこで腐らず、その場所で一所懸命に取り組めるかどうか。・・・難しいよ。分かってはいても、理性で気持ちを抑えられないことも多いし、ね。
でも、この小四郎のように、何とかやってみる。そこで精一杯取り組んでみるというのは大切なことなんだろうなぁと思いました。そしたら、全く興味のなかったことに面白さや楽しさや、何かしら感じることが出来るのかもしれませんね。
・・・って、なんだか自分に言い聞かせてるような気もするけれど(笑)
御松茸同心として、松茸の不作の原因を探ったり、江戸からの気の遠くなるような注文数を必死で用意したりする小四郎に姿に魅せられつつ、気が付くと、尾張藩主であった宗春公へと気持ちが吸い寄せられていく。実のところ、”華美で派手好きだった宗春公”というイメージしか持ってなかったけれど、それは表面の姿だけだっんだなぁということを知りました。宗春公の中には、君主たるものこうあるべきと思い描く姿があり、それを実践するために必要なことだった。小四郎のように真っ直ぐ突き進んでしまうと、色んなところで軋轢を生んだりもする。そうじゃなくて、回りまわって藩の為に、それが民の為になるように、そんな想いが垣間見えて、あぁ、良い藩主様だったんだなぁと改めて気付かされました。
そして、そういうことに気付いた小四郎が、松茸不作の原因を突き止め、長いスパンで、自分が出来ることからコツコツと始めた姿に嬉しくなりました。そんな姿に周囲も心動かされ、人が集まっていく。最後の宗春公と小四郎のやりとりには胸が熱くなりました。
読了して、宗春公のことをもっと知りたくなった単純な私です(笑)
(2015.01.16 読了)
2015年01月20日
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宗春公と小四郎、そして小四郎の行為の後ろにいる領民たちとのお互いを思いやる気持ちが溢れるラスト、よかったですよねぇ。心が温かくなりました。
小四郎には是非、出世して家老になって、領民と藩士たちが幸せになれる尾張藩を作り上げていって欲しい、と思いました!
ラスト、本当に良かったですよね!グッと胸が熱くなりました。
きっと小四郎なら出世して良い家老になるんじゃないかなぁと思います!そんなお話も読んでみたいような気もしますが、きっと、それは野暮というものなんでしょうね^_^;
宗春公がかっこよくて、最後のシーンを演じるなら、どの訳者さんがいいかなーとわくわくしてしまいました。
所作がきれいな、細く枯れた感じの人がいいな。。。
小四郎の活躍を持っていかれた気がしないでもないラストでした。
返信がとっても遅くなりましたm(__)mごめんなさいー!
宗春公がかっこ良かったねぇ。派手好きという印象だったんだけど、こういう君主なら人気があったはずだと思えました。
演じるなら…とか考えながら読んだことがないので、そういう発想はなかったけど、所作がきれいで細く枯れた…と想像を始めたら楽しくなりました。
確かに宗春公はかっこ良かったけど、小四郎がちょっと霞んじゃった感はあったね(^-^;