植物性吸血鬼バンブーと彼らに育てられた子供のお話を含む3編の中短編集。
桜庭さんらしいお話ではあるけれど、今までとちょっと雰囲気が違うような、そんな印象を受けました。刹那的で退廃的なイメージは変わらないんだけど、なんだか全体的に優しい、温かい感じ・・・かな。かな、っていうのが曖昧なんだけど(笑)
バンブーの掟に背きながらもムスタファと洋治という二人のバンブーに育てられた人間の梗ちゃん。二人の愛情に包まれながら高校生になった梗ちゃんは、ある時、二人が彼の巣立ちを楽しみにしていることを知る。ずっと一緒に居られると思っていたのに、それは叶わないのか・・・。自暴自棄になった梗ちゃんは、バンブーにとって人間と暮らすことが最大の禁忌であることを知り、そして、その禁忌に触れていることを他のバンブー達に知られてしまい・・・。
最初の中編「ちいさな焦げた顔」が、この作品の中心となるお話。バンブーと出会った少年の成長物語とも言えるのでしょうが、見た目が変わらず長寿なバンブーと、成長し老いていく人間の出会いは、最初から別れを予感させるもので、切ない気持ちが付きまといながらの読書となりました。でも、二人のバンブーの深い愛が伝わってきて、切なさの中にも温かさというかね、そんな気持ちもあって、気持ちがずずーんと重くなるだけではなかったのは良かった。
バンブーとの別れがどういう風に訪れるのかと思ってたら、予想以上に辛く悲しい別れで胸が詰まりました。何もかもを達観したような洋治の姿に堪らない気持ちになりました。梗ちゃんの究極の選択だったんだろうと思うし、最初の出会いを考えたら、ああいう風になったのもしょうがないと思うけど、そこで選ぶなー!どっちも選べー!と心の中で叫んじゃいましたよ。読んでて、すごくつらい場面でした。
ラストは、年老いた梗ちゃんがあの家に戻ってきて・・・。ムスタファは変わらないなぁと思わず苦笑しちゃったよ。でも、素敵なラストでした。
そして、次の短編「ほんとうの花を見せにきた」は、最初のお話の中に登場した茉莉花のその後のお話。タイトル作となっているけれど、最初の中編のスピンアウト的なお話でした。人間と流れる時間が違うことの切なさ、悲しさが伝わってきて胸が締め付けられました。成長し続ける人間と、それが止まってしまったバンブーは、いつの日か一緒に暮らせない日がやってくる。だからこそ、一緒にいる日々が愛おしいんでしょうけどね・・・。最後の場面、私も見てみたいなぁと思いました。
最後の「あなたが未来の国に行く」は、バンブーたちがどうして中国から日本へやってくることになったのかが描かれている。この時にバンブーの掟が出来たんですね。そして、ここではバンブー同士の別れが描かれていて、その理不尽な出来事に憤りと悲しみを感じました。最初のお話で登場した類類の悲しみが切なかった。こういう別れがあるからこそ、掟は絶対なのでしょうね。そうなってしまうのも頷けるなぁと思いました。
このお話を読んだら、もう一度、最初のお話を読みたくなってしまった・・・。
そうそう!
この作品って「桜庭一樹短編集」に収録されている「五月雨」に登場した吸血鬼じゃないのかな。たしか、中国からやってきた・・・とかいうのだったと思うんだけど。もしそうなら、この作品世界の後に最後の一人になっちゃったってことなんでしょうか・・・。そう思い当たったら、なんだか寂しさがこみ上げてきました。
・ちいさな焦げた顔
・ほんとうの花を見せにきた
・あなたが未来の国に行く
(2015.01.19 読了)
2015年01月22日
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梗ちゃんとムスタァと洋治の関係がとても良かったですよね。この時間がずっと続けばいいのにと思っていました。切なかったですね。年を重ねた後の再会は嬉しいような切ないような。2人の世界が違うということを痛感した場面でもありました。
スピンオフの2作も良かったです。どこか幻想的ででもリアルで。桜庭さんはこういう作品を書かれるのが上手いですよね。
読み返したいなぁ。
吸血鬼なのに竹のお化けってところが斬新でしたよね。
吸血鬼なのに寿命があるっていうのも面白い設定でした。
人間と吸血鬼の交流に、切ない気持ちになりましたね。
流れる時間が違うと、やっぱりずっと一緒にはいられない
ですものね・・・。
久しぶりに好みの桜庭作品が読めて嬉しかったです。
3人の関係がすごく良かったですね。私もずっと続けはいいのにと思いましたが、別れがちらついて…切なかったです。再会があるとは思わなかったので嬉しかったですね~。
桜庭さんのこういうお話をもっと読みたいです。
短編集の方は山上ホテルを舞台にした作家さんのお話だったんですが、実は中国からやってきた吸血鬼で…というお話でした。だから、もしかして同じ?と思ったんですけど、どうでしょう(^-^;
吸血鬼の設定が変わってて面白かったですね。流れる時間が違うというのは残酷なことだなぁと切なくなりました。
私も好みの桜庭作品で嬉しかったです!
やっぱり「五月雨」の吸血鬼と同じ一族の話なんでしょうか?気になりますね。
生きて変化することは成長で、素晴らしいことで、バンブーたちにとっては、本当に憧れることなのだろうけど、その中には忘却や衰えという切なさも入り混じる、そんな風に感じました。
水無月・Rさんも「五月雨」と一緒?と思われましたか!ホントのところはどうなんでしょう。気になりますよねぇ。
成長するものとしないものの人生が重なる。憧れを持ちつつ諦め、そして忘れられる寂しさを味わう。とても切なさを感じる作品でしたね。