朝日新聞朝刊に連載されていた作品。連載が始まって最初の頃は読んでたんですが、お泊りだったり何だりで読みそびれてしまって、途中で断念したんですよね。連載が終了した時から、こうして刊行されるのを心待ちにしていました。
とはいえ、内容的には心待ちにするようなものではない。
中学2年生の男子生徒が学校の部室棟の屋上から転落死した。事故なのか、自殺なのか、それとも他殺なのか・・・。警察の捜査が始まると生徒がいじめを受けていたことが分かり、首謀者とみなされた同級生4人のうち、2人が逮捕され、2人が補導されるが・・・。
最初は、いじめが発端となった転落死なのかと思ってたんですが、だんだんと様相が変わっていく。転落死した中学生といじめの首謀者とされた中学生達との関係や、加害者とされた中学生の母親達が描かれ、事件の真相に近づいていく毎に、「あれ、ちょっと違うような」という気持ちがどんどん膨らんでいく。思い込みの恐さ、そして、真実に辿り着くことの難しさをヒシヒシと感じさせられました。
だんだんと気持ちのタガみたいなものが外れて、エスカレートしていく恐さというかね、集団心理の恐ろしさも感じてしまいました。転落死した中学生の言動には、私が同じ同級生だったら彼らと同じように怒りを感じただろうなぁと思う。だから、読んでいて中学生達の最初の行為にも「あ~分かるよ」と肯定している自分に気付いてドキッとしたりもしました。私も当事者となったら、その怒りをこういうやり方で表したかもしれない。最初は躊躇しても、最後には流されてしまっていたかもしれない。そう思ったら、ドキッとするよりもゾッとしました。そして、一度やってしまうと2度目はそれほどの躊躇を感じなくなってしまうんですよね。恐い事ですけど。だんだんと感覚が麻痺していって、行為がエスカレートしていったり、それを容認してしまうようになる様子に、読んでいてもそれほど違和感を感じないというのが恐かった。なんといっても、中学2年生ですからね。途中で「それは行き過ぎ」と歯止めをかけることが出来なかったんだろうなぁとも思いました。
だからって、やってもいいかと言われると、それはやっぱり、やってはいけないと思うんですけどね。”いじめ”という言葉に誤魔化されそうになりますが、それは恐喝であり、暴力であるということに変わりはないんですから。
同学年であっても、13歳か14歳かで扱いが違うということ、少年法とはこういうことなんだなぁということも実感させられました。同じ事件の同じ加害者という立場に立たされても、14歳か否かで逮捕になるのか補導になるのか。その違いは大きい。もし、14歳の子供を持つ母親であったら・・・と思うと、なんとも釈然としない気持ちになるのは当然の事だよなぁと思いました。どこかで線引きはしなければならないとは思うので、しょうがないのかなぁとは思うんですけど。でも、当事者になってみれば、どうして扱いが違うのか、自分を納得させるのは難しいだろうなぁとも思いました。
事件が描かれた後、いきなり過去に戻ったのには戸惑いました。その後も、時系列が行ったり来たりするのがちょっと読みづらかったかなとは思いますが、事件に到るまでのことが関係者それぞれについて丁寧に描かれていたという印象は受けました。なんにしろ、かなり読み応えがありました。
それにしても、あのラストは衝撃的でした。そこで終わるのかーっ!と思いましたが、そこから冒頭に戻るんだと思うと、この構成はお見事!と思えます。ただ、女子生徒たちのことはあのままなのかなと思うとちょっとスッキリしないとうかね、もやもやが残ってしまいますけど・・・。
現実でも、いじめが発端となった自殺や事件が起こっています。どれもが、この小説で描かれたものがベースになっているとは思いませんが、もしかすると、この小説のような真相もあるのかもしれないなぁと思いました。警察発表や報道では分からない、生徒の心の動きや真実が隠されているということもあるかもしれない。その可能性は全くの0ではないんですよね。当事者にしか分からない事もあるんだということを、改めて感じたりもしたのでした。
(2013.03.08読了)
2013年03月15日
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奥田英朗/「沈黙の町で」/朝日新聞出版刊
Excerpt: 奥田英朗さんの「沈黙の町で」。 中学2年の男子生徒が部室棟の屋上から転落し死亡した。事故? 自殺? それとも他殺なのか……? やがて生徒がいじめを受けていたことが明らかになり、小さな町に..
Weblog: ミステリ読書録
Tracked: 2013-03-16 00:00
普通のいじめ問題とは少し違った角度から見た作品でしたよね。いじめられる側にも問題があるという書き方は少し問題視されているようですが、実際こういういじめのケースも実在しそうですよね。いじめって、何がスイッチになって始まるかわからないところが怖いです。昨日まで仲良しだった人が突然敵に回ったりして・・・。私は幸いなことにそういう目には遭ったことがないですが、本書のような状況に置かれたら、いじめに加担しないでいられたかどうかも自信がないです・・・。いろいろと、考えさせられる作品でした。
こちらこそ、ご無沙汰してます^^;
まさに、違った角度から見たいじめ問題という作品でしたね。でも、この作品が問題視されてたりもするんですか。う~ん、それってどうなんでしょうね。私は「あぁ、こういうケースもあるんだよなぁ」と思いながら読んだんですけど^^;
自分も加害者になるかもしれないという怖さも味わいましたよね。そういうところなど、本当にいろいろと考えさせられる作品でしたね。