2010年09月15日

夜行観覧車(湊かなえ)

わー面白かった!
著者のデビュー作「告白」の衝撃が大きすぎて、その後の作品には「あれに比べると物足りない・・・」なんて感想を書いていましたが、この作品では書きませんよー。

高台の高級住宅地に住むエリート一家で起こった殺人事件。父親が被害者で母親が加害者。事件の起こったエリート家族、向かいに住む家族、そして、高級住宅地に古くから住んでいるひとりの主婦。彼らそれぞれの視点で語られる真相は・・・。

事件の起こった家の向かいに住む、ちょっと無理して高級住宅地に家を建てた家族。その娘がね、ま~凄かった。凄かったっていうか、本当に「イヤナヤツ」全開でして。呆れちゃうくらい。彼女にも色々と事情とか同情の余地もあると思いつつ、湧き上がる嫌悪感は拭えない。ここまで「イヤナヤツ」に描ける著者に感嘆しちゃうくらいでした。

そして、その荒れ放題な娘のいる家族ではなく、向かいに住んでいる、な~んの問題もなさそうなエリート医師一家で起こった殺人事件。

それぞれの家族の視点で事件が語られ、それに、近所に住む高慢な主婦の視点でも事件が語られる。だんだんと見えてくる真相と動機、そして家族の闇。もうね、ページを繰る手が止められない!被害者である父親はもちろん、加害者である母親の視点でも語られないもんだから、ある意味、ミステリのような色合いも帯びてくる。そして、最初に想像した真相はあえなく消えていく(笑)・・・え?てことは、どういうこと?どうしてーっ?と、先が気になって気になって・・・。まんまと著者の術中にはまってしまった私は、「寝なきゃ。明日も仕事なんだから、この章を読んだら寝なきゃ!」と思いつつ、止められるはずもなく・・・。結局、最後まで一気読みしちゃいました。

とはいえ、ちょっとご都合主義的すぎるんじゃ?と思える部分もあるにはあったんですよね。特に、殺人事件の起こった家族の子供達がバスターミナルで再会する場面は、あまりにも偶然過ぎて「これはどうなの?」と思わずにはいられない。

そういや、その子供達の長男の彼女も出番は少ない割に印象的でした。私には全く理解出来ない存在としてですけど。いや~、彼女は凄かったですねぇ。この作品に登場する人たちって、感心しちゃうくらい「自己中」な人たちばっかりだったんですが、その中でも際立って「自己中」だったのが彼女。ああいう時にあの言動って、もうね、私の理解を超えています。最初は「なんなんだ!」と怒りを感じてたんですが、最後は宇宙人でもみてるような気分になりました。てか、その彼女になんだかんだ言いつつ従っちゃってる長男にもビックリでしたけどね。

ラストの子供達の選択がかなり予想外でした。たしかに、これから世間の好奇の目に晒される子供達にとって、ああするのが一番、暮らしやすい選択だったんだろうとは思う。思うんだけど、まさかそうくるとはっ!と、かなり意表を付かれました。「告白」とは違っていたけれど、それでも”衝撃”を受けたと言ってもいいくらい。いや~予想外というか、かなり驚きのラストでした。

それにしても、お向かいの家族は、今後も本当に家族としてやっていけるんでしょうか。あんなことがあったのに・・・。それとも、あんなことがあっても一緒に暮らしていけるから「家族」なんでしょうか。”暮らしていける”というより”暮らさなきゃいけない”のが家族なのかな。そう考えると、家族って一度乗ってしまったら何があっても途中で降りられない。どうしても、最後まで一緒に居なきゃいけない「観覧車」のようなもの。この作品のタイトルはそういう意味なんでしょうか・・・。





(2010.09.07読了)



夜行観覧車
双葉社
湊 かなえ

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ラベル:読書 著者(ま)
posted by すずな at 05:32| Comment(4) | TrackBack(5) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自己中な人たちの集まりでしたね。
その人たちが集まって、こんな風な物語になるなんてすごいなあと感心しました。
人の持つ悪の部分を描き出すのがうまい作家さんですよね。
Posted by at 2010年09月15日 21:14
>花さん
お見事なくらい自己中な人ばかりでしたね~。
その人たちを上手く料理してこんな作品を作る湊さんは、ホント凄いですね。人間の悪の部分に「うわー;;;」と思いつつ、こういうのもクセになってしまってつい読んでしまいます^^;
Posted by すずな at 2010年09月17日 05:33
すずなさん、こんにちは(^^)。
自己中心的な登場人物たちばかりですが、自分にもそういった面がある、似た立場にある、そんなことが重なって、湊さんの作品の中で、一番抉られました…。すんごい痛いです(^_^;)。
家庭内殺人という非日常が、実はどこにでもある普通に見える家庭にも起こるかもしれない、という設定に全く無理がないのが怖かったです…。ああ、ほんと湊さんて恐ろしい作家さんです。

すずなさんが最後に書いた「観覧車」の解釈、凄く納得しました!確かに家族って、そういうものかもしれません。
自分の家族を振り返ってみて、確かにもう降りることができないな…と。
Posted by 水無月・R at 2011年09月26日 17:06
>水無月・Rさん
非日常のお話のようでいて登場人物が身に覚えのある面も持ち合わせているところが、非常にリアリティがあって怖さもますます感じてしまうんでしょうね。湊さん、上手いですよねー。
乗ってしまったら地上に着くまで降りられない…家族ってホント、そんなものなんでしょうね。。。
Posted by すずな at 2011年09月28日 12:42
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