第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
というのを、読了した後に知った(笑)へぇと、ちょっと意外でした。前知識無しに読んだんだけど、それで良かったかなと思いました。ホラーというよりもファンタジーという印象で、ホラー作品だと思って読んでたら、ちょっと物足りなさを感じてしまったような気がします。
タイトル作の「夜市」と「風の古道」の2作を収録。どちらも、怪しく、物悲しい雰囲気を漂わせていて、日本のじとーとした暗さと、何百年も前から連綿と続いてるんだという歴史を感じる作品。そして、読みながら春夏秋冬というか、自然が身体の周りにまとわりつく。日本の作品なんだな、と強く思えるお話でした。
何でも売ってる不思議な夜市。望むものが何でも手に入る。でも、何かを買わないと帰れない。幼い頃、夜市に迷い込んだ主人公は弟と引き換えに「野球の才能」を手に入れていた。大人になった彼は、弟を取り戻そうと再び、夜市に向かう・・・。
もうね、「夜市」ってだけで私の心を掴みました。いかにも、な感じじゃないですか!暗くて重い不思議な世界。明るいファンタジーも好きだけど、日本的なこういう”じとー”とした感じも好きです。そして、哀しくやるせなさを感じるラスト。うふふふと心が浮き立つようなラストじゃないところも魅力なのだと思います。それが、「おぅ、そうきたか!」なラストだったので、余計に心を掴まれました。
と、絶賛しつつ、実はこのタイトル作品よりも、もうひとつのお話「風の古道」の方が好きでした。
フト見付けた脇道。好奇心から足を踏み入れるとそこはもう異世界。人成らざる者が行き交い、すぐそこに見えているのに元の世界にはなかなか帰れない。それでもなんとか帰ろうとする子供達を襲う哀しい出来事・・・。
胸をぎゅぅーっと掴まれる。自分だけではどうにもならない現実。「どうしようもない」ってことがあるんだということを知らされ、それを受け入れなければならない。そして、子供はちょっと大人になる。・・・子供から大人になる瞬間を描いた作品でもあるのかな、と思いました。
ふと目にした脇道。そこに、古道へと続く道が実在するのだろうか。もしそれが在るのなら、永遠に古道から出られない彼に会ってみたい。誘惑に負けて、恐る恐る足を踏み入れてみる。いつの日か、私も古道に引き込まれる日が来るのかもしれない・・・。
2008年07月23日
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恒川さんの描く、とても幻想的で美しい異界。
しかもそれは、すぐそばにあって、いつの間にか吸い込まれてしまったりしそうな・・・。
怖いのに、とても心惹かれます。
『雷の季節の終わりに』『秋の牢獄』も、すっごく、良かったですよ~。
多分、すずなさんのお好みに合うんじゃないかと思います。よろしければ是非どうぞ。
いつもTB&コメントありがとうございます!
夜市の怪しく寂しく、そして哀しい情景に引き込まれ、貪るように読んでしまいました。シンプルながら美しい文章に魅了されましたね。
ほろ苦い結末に意表を突かれましたが、それがまた魅力でした。
>水無月・Rさん
そうそう。現実にもすぐそこに存在しているような怖さがずんずんと感じられる文章に、ついつい惹きこまれましたね。
オススメありがとうございます!早速、読んでみますね~。
水無月・Rさんもおススメされてますが、恒川さんの既刊もすごく良いですよ~。私からもおススメです♪
情景が目の前に広がるような描写に惹きこまれましたね。
魂に刻まれた記憶!おぉ~それです!そのお言葉がシックリきますね~。
エビノートさんもオススメなんですね!お二人からの強力なプッシュをいただいたのですから、必ず読まねば!と心に刻み付けました(^^)
恒川さんは魅惑的な空間を作るのが上手いです。
皆さんお勧めのように、他の作品で出てくる場所もかなりいいです
何かがいそうで、何かが起こりそうな夜市。想像しただけでゾクゾクとしつつ、なんだか惹かれてしまいますね。
たまねぎさんもオススメですか!実はすでに手元に1冊あるのです~。読むのが益々楽しみになってきました♪