あぁ、良かった。
この作品を読めて、宮下さんという作家さんと出会えて、本当に良かった。そう心から思いながら読了しました。
タイトルから、森と共に暮らす誰かのお話かなぁなんて思っていたら、なんとピアノ調律師のお話でした!「羊と鋼」って、そうきたかーっと、まずはビックリ。でも、読んでいくにつれて、このタイトルがすごくすごくシックリしてくるんですよね。最後は、あぁ、まさにこのタイトルだ!と思いました。
新米ピアノ調律師である外村くんが、調律師を目指そうと決めた先輩調律師の板鳥さんや、柳さん、そして秋野さん達に囲まれ、挫折を繰り返しながらも成長する姿が描かれているんですが、人はこうやって、好きなことにコツコツと向き合っていれば、いつか必ず、それに見合っただけの何かを得られるものなんだと、そんなことを教えられたような、そんな気がします。これって、宮下さんのデビュー作である「スコーレNo.4」を読んだ時と感覚が似ているんですけど。実は、読み終わった後に「あ、回って回って巡って巡って、またスコーレNo.4に辿り着いたなぁ」と、そんなことも思ったのでした。
印象的だったのが、外村くんが指針とすることになる作家の原民喜さんの言葉。その文章を読んだ時に、宮下さんの文章がまさに”これ”だよなぁと思ったんですけど。もしかしたら、宮下さんご自身が指針とされている言葉なのかな。・・・とか、それは深読みしすぎでしょうけど;;;
明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体(原民喜)
宮下さんの作品って、ぐわーってハイテンションになる訳でなく、じわじわとしんしんと沁みてくる感じなんですよね。私は勢いで読んじゃうことも多々あるんですけど(笑)、そういう読書は出来ない。言葉の一つ一つを丁寧に、一つも読み飛ばすことなく丁寧に、しっかりと拾って読まなければ。そうしないと、何かすごく大切なことを見落としてしまいそうで。それはすごくすごく勿体なくて。そう思わせてくれる文章。
私にもうひとつの読書の仕方を教えてくれた大切な作家さん。これからも、ずっと追いかけていきたいなぁと、改めて思ったのでした。
実は、2015年最後に読んだのがこの作品でした。一年の締めくくりに素敵な作品に出会えたことに感謝。2016年も、素晴らしい作品に出会えますように。。。
(2015.12.30)