2015年01月22日

ほんとうの花を見せにきた(桜庭一樹)

植物性吸血鬼バンブーと彼らに育てられた子供のお話を含む3編の中短編集。

桜庭さんらしいお話ではあるけれど、今までとちょっと雰囲気が違うような、そんな印象を受けました。刹那的で退廃的なイメージは変わらないんだけど、なんだか全体的に優しい、温かい感じ・・・かな。かな、っていうのが曖昧なんだけど(笑)

バンブーの掟に背きながらもムスタファと洋治という二人のバンブーに育てられた人間の梗ちゃん。二人の愛情に包まれながら高校生になった梗ちゃんは、ある時、二人が彼の巣立ちを楽しみにしていることを知る。ずっと一緒に居られると思っていたのに、それは叶わないのか・・・。自暴自棄になった梗ちゃんは、バンブーにとって人間と暮らすことが最大の禁忌であることを知り、そして、その禁忌に触れていることを他のバンブー達に知られてしまい・・・。

最初の中編「ちいさな焦げた顔」が、この作品の中心となるお話。バンブーと出会った少年の成長物語とも言えるのでしょうが、見た目が変わらず長寿なバンブーと、成長し老いていく人間の出会いは、最初から別れを予感させるもので、切ない気持ちが付きまといながらの読書となりました。でも、二人のバンブーの深い愛が伝わってきて、切なさの中にも温かさというかね、そんな気持ちもあって、気持ちがずずーんと重くなるだけではなかったのは良かった。

バンブーとの別れがどういう風に訪れるのかと思ってたら、予想以上に辛く悲しい別れで胸が詰まりました。何もかもを達観したような洋治の姿に堪らない気持ちになりました。梗ちゃんの究極の選択だったんだろうと思うし、最初の出会いを考えたら、ああいう風になったのもしょうがないと思うけど、そこで選ぶなー!どっちも選べー!と心の中で叫んじゃいましたよ。読んでて、すごくつらい場面でした。

ラストは、年老いた梗ちゃんがあの家に戻ってきて・・・。ムスタファは変わらないなぁと思わず苦笑しちゃったよ。でも、素敵なラストでした。


そして、次の短編「ほんとうの花を見せにきた」は、最初のお話の中に登場した茉莉花のその後のお話。タイトル作となっているけれど、最初の中編のスピンアウト的なお話でした。人間と流れる時間が違うことの切なさ、悲しさが伝わってきて胸が締め付けられました。成長し続ける人間と、それが止まってしまったバンブーは、いつの日か一緒に暮らせない日がやってくる。だからこそ、一緒にいる日々が愛おしいんでしょうけどね・・・。最後の場面、私も見てみたいなぁと思いました。


最後の「あなたが未来の国に行く」は、バンブーたちがどうして中国から日本へやってくることになったのかが描かれている。この時にバンブーの掟が出来たんですね。そして、ここではバンブー同士の別れが描かれていて、その理不尽な出来事に憤りと悲しみを感じました。最初のお話で登場した類類の悲しみが切なかった。こういう別れがあるからこそ、掟は絶対なのでしょうね。そうなってしまうのも頷けるなぁと思いました。
このお話を読んだら、もう一度、最初のお話を読みたくなってしまった・・・。



そうそう!
この作品って「桜庭一樹短編集」に収録されている「五月雨」に登場した吸血鬼じゃないのかな。たしか、中国からやってきた・・・とかいうのだったと思うんだけど。もしそうなら、この作品世界の後に最後の一人になっちゃったってことなんでしょうか・・・。そう思い当たったら、なんだか寂しさがこみ上げてきました。






・ちいさな焦げた顔
・ほんとうの花を見せにきた
・あなたが未来の国に行く



(2015.01.19 読了)






ほんとうの花を見せにきた
文藝春秋
桜庭 一樹

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ラベル:読書 著者(さ)
posted by すずな at 13:04| Comment(6) | TrackBack(3) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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