贈賄行為に携わり失踪した男と、その浮気相手、妻、姉、娘のその後を描いた連作短編集。
人って、ほんのささいな”たった、それだけ”のことで、救われたり、何かを決断したりすることがある。それを、しみじみと感じた1冊でした。「どうしたの?」「大丈夫?」その一言にどれだけ救われることがあるか。これは、実際に経験したことがないと分からないかもしれないけれど。でも、本当にあるんですよね。私にも、そんな経験があります。今でも、その時の気持ちは忘れない、忘れられない。その人のためだったら、その人に懇願されたら、いや、頼まれなくても、私だってもしかしたら・・・と思います。
だから、最初の章で浮気相手が「どうしたの?」と声をかけられたことがきっかけで、男の逃亡を助けることまでしてしまう、その行為を単純には責められない、そんな気持ちになります。分かる。とは言わないけれど、そこまでしてしまった気持ちは、理解できる。もちろん、残された家族、特に娘のことを想うと、一概に逃亡が良かったとも思わないし、それを助けた彼女の行為を肯定する訳ではないんですけどね。
そして、”たった、それだけ”のことに救われた人がいる一方で、そのことに、その一言に、影響されて心を乱してしまって、後で後悔するような言動をとってしまうことだってある。この男の姉のように。後になって考えると、どうしてそこまで・・・と思うことでも、その時は、それが一番良いような気がするんですよねぇ。私にも覚えがあって、その章を読みながら、ちょっとイタイ気持ちになりました。
ささいなことがキッカケで、人の人生は変わっていく。私のささいな一言が誰かの人生を変えてしまったら・・・そう思うとちょっと怖い。でも、どうせなら、誰かにとって良かったと思えるような、そんな言葉をかけられたらいいなぁとそんなことも思ったのでした。
それにしても、こういう時の一番の被害者は、やっぱり子供なんだなぁと思いました。大人の手助けがないと一人では生きていけない。だからこそ、保護されるべきなのに、どうしても大人のしわ寄せがきてしまう。小学生になったルイの章では、堪らない気持ちになりました。この先生と出会えたことは良かったと思うけれど、ずっと守ってくれる訳でもない。それでも、一人でもこんな先生と出会えたことは、まだ救いだったのではないかなぁと思いました。・・・って、そう思うのは読者の勝手な願望なのかもしれないけれど。
高校生になったルイがトータと出会って変わっていくのが嬉しかった。読みながら、ついつい頬が緩んでしまいました。そして、そんなトータの友人が主人公となった最後の章。うわー、ここで終わるかーっ!?と、思わず叫びたくなりましたよ(笑)ラストの場面で、とうとう!?とドキドキしたのに、その場面は描かれず。その日ではなかったのかもしれないけど、きっと出会ったと思いたい。そして、その日じゃなくても、お互いに心のわだかまりが融ける日が来て欲しい。そう心から思いました。
(2015.01.15 読了)