2015年01月23日

物語のおわり(湊かなえ)

面白かった!

「空の彼方」という未完の短編から始まり、その短編が北海道を旅する人々の手に次々と渡っていくという連作短編集。

最初の短編を読んだ時、一昔前の文体もだし内容もイマイチで、おまけに中途半端な終わり方で未完という、本当になんだかなぁ・・・な物語で、これはちょっと大丈夫?と、自分と湊さんに突っ込みを入れたんですよね。まさかの短編集?ってこともあって、読了出来るかなと、いきなり不安になりながら次の短編を読み始めたんですが・・・。


いやいや、いやいや。湊さん、ほんっとーに、ごめんなさーいっ!と平謝り。最初の短編はその後のお話の為の振りだったんですね。連作集になってたんですね。うわー、挫折しなくてホント良かった・・・としみじみ思いましたです、はい。短慮はいかんよ、うん。

・・・と、ちょっと動揺してますが(笑)


妊娠中の女性、実家のかまぼこ工場を継ぐことになった男性、娘と進路のことで衝突している男性などこれからの人生に対して様々な思いを抱えて北海道を旅している人々。そんな職業も年齢も性別もバラバラな人々の間でバトンのように受け渡されていく未完の短編「空の彼方」。だれかの日記のようでもあるその物語を読み、それぞれが自分の抱えた思いを反映し、自分なりのエピローグを想像していく。そして・・・。

主人公が変わる度に、「空の彼方」のあらすじが書かれているんだけど、立場や抱えている思いによって、こんなにも変わるものなのかと驚きました。どこに焦点を当てるかで、ずいぶんと変わるもんなんですねぇ。それらを比べて読むのも面白かった。そして、それぞれに合わせて変化をつけた湊さんも凄いなぁと思いました。

未完の短編を受け取った人々が、それぞれに物語の結末を想像していく。想像というか、願望だったりもするんだけど、こちらも、抱えた思いによって違ってくるんですよね。そういう作業をしながら、自分の思いを消化というか、昇華していく。そして、一歩を踏み出していく。あぁ、こういう読書が出来ると嬉しいなぁと思いました。今の私だったら、この「空の彼方」という物語にどんな結末を創るかなぁ・・・と、そんなことを想像したりもして。いつもの読書とは、ちょっと違った読み方も出来た作品でした。

次々に人の手に渡っていく物語は、やがて・・・。
最後のお話は、もうね、そうきたかーっ!と唸ってしまいましたよ。うわ、そういうこと!?と、分かった途端、テンションがあがりました。そして、未完の物語の本当の結末もちゃんと書かれていて、最後は思わず涙腺が緩んでしまいました。ハムさんって、なんて素敵な男性なんだ!と、絵美ちゃんがとっても羨ましくなりました。


心に沁みるお話でした。
・・・って、湊作品の感想じゃないみたい(笑)




・空の彼方
・過去へ未来へ
・花咲く丘
・ワインディング・ロード
・時を超えて
・湖上の花火
・街の灯り
・旅路の果て



(2015.01.21 読了)





物語のおわり
朝日新聞出版
2014-10-07
湊 かなえ
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ラベル:読書 著者(ま)
posted by すずな at 16:25| Comment(4) | TrackBack(2) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月22日

ほんとうの花を見せにきた(桜庭一樹)

植物性吸血鬼バンブーと彼らに育てられた子供のお話を含む3編の中短編集。

桜庭さんらしいお話ではあるけれど、今までとちょっと雰囲気が違うような、そんな印象を受けました。刹那的で退廃的なイメージは変わらないんだけど、なんだか全体的に優しい、温かい感じ・・・かな。かな、っていうのが曖昧なんだけど(笑)

バンブーの掟に背きながらもムスタファと洋治という二人のバンブーに育てられた人間の梗ちゃん。二人の愛情に包まれながら高校生になった梗ちゃんは、ある時、二人が彼の巣立ちを楽しみにしていることを知る。ずっと一緒に居られると思っていたのに、それは叶わないのか・・・。自暴自棄になった梗ちゃんは、バンブーにとって人間と暮らすことが最大の禁忌であることを知り、そして、その禁忌に触れていることを他のバンブー達に知られてしまい・・・。

最初の中編「ちいさな焦げた顔」が、この作品の中心となるお話。バンブーと出会った少年の成長物語とも言えるのでしょうが、見た目が変わらず長寿なバンブーと、成長し老いていく人間の出会いは、最初から別れを予感させるもので、切ない気持ちが付きまといながらの読書となりました。でも、二人のバンブーの深い愛が伝わってきて、切なさの中にも温かさというかね、そんな気持ちもあって、気持ちがずずーんと重くなるだけではなかったのは良かった。

バンブーとの別れがどういう風に訪れるのかと思ってたら、予想以上に辛く悲しい別れで胸が詰まりました。何もかもを達観したような洋治の姿に堪らない気持ちになりました。梗ちゃんの究極の選択だったんだろうと思うし、最初の出会いを考えたら、ああいう風になったのもしょうがないと思うけど、そこで選ぶなー!どっちも選べー!と心の中で叫んじゃいましたよ。読んでて、すごくつらい場面でした。

ラストは、年老いた梗ちゃんがあの家に戻ってきて・・・。ムスタファは変わらないなぁと思わず苦笑しちゃったよ。でも、素敵なラストでした。


そして、次の短編「ほんとうの花を見せにきた」は、最初のお話の中に登場した茉莉花のその後のお話。タイトル作となっているけれど、最初の中編のスピンアウト的なお話でした。人間と流れる時間が違うことの切なさ、悲しさが伝わってきて胸が締め付けられました。成長し続ける人間と、それが止まってしまったバンブーは、いつの日か一緒に暮らせない日がやってくる。だからこそ、一緒にいる日々が愛おしいんでしょうけどね・・・。最後の場面、私も見てみたいなぁと思いました。


最後の「あなたが未来の国に行く」は、バンブーたちがどうして中国から日本へやってくることになったのかが描かれている。この時にバンブーの掟が出来たんですね。そして、ここではバンブー同士の別れが描かれていて、その理不尽な出来事に憤りと悲しみを感じました。最初のお話で登場した類類の悲しみが切なかった。こういう別れがあるからこそ、掟は絶対なのでしょうね。そうなってしまうのも頷けるなぁと思いました。
このお話を読んだら、もう一度、最初のお話を読みたくなってしまった・・・。



そうそう!
この作品って「桜庭一樹短編集」に収録されている「五月雨」に登場した吸血鬼じゃないのかな。たしか、中国からやってきた・・・とかいうのだったと思うんだけど。もしそうなら、この作品世界の後に最後の一人になっちゃったってことなんでしょうか・・・。そう思い当たったら、なんだか寂しさがこみ上げてきました。






・ちいさな焦げた顔
・ほんとうの花を見せにきた
・あなたが未来の国に行く



(2015.01.19 読了)






ほんとうの花を見せにきた
文藝春秋
桜庭 一樹

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ラベル:読書 著者(さ)
posted by すずな at 13:04| Comment(6) | TrackBack(3) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月21日

六花落々(西條奈加)

日本で初めて雪の結晶を顕微鏡で観察し、それを一冊の本にまとめたのは下総古河藩主の土井利位。その御学問相手として雪の結晶集めに助力した小松尚七を描いた作品。

その探究心のせいで「何故なに尚七」と呼ばれる尚七が、雪の結晶を探しているところに通りかかった藩の重臣である鷹見忠常に声をかけられ、その縁で世継ぎの土井利位の御学問相手に選ばれる。尚七を中心に雪の結晶を観察し、その結晶図をまとめ、後に「雪華図説」「続雪華図説」として出版された。

雪の結晶を集めるだけではなく、藩主、重臣、藩士として立場の違う3人が、それぞれの立場で藩や民の為に奔走する姿に胸を熱くした場面もありました。途中、大飢饉に襲われたり、大阪の「大塩平八郎の乱」に遭遇した場面もあり、立場が違う故に相容れない思いがあったことも描かれていました。そこで葛藤したり、後になって、あの時のアレはこういうことだったのか!と分かり、複雑な心境になったり。尚七の心の動きを通して、藩主や重臣の在り様を見ることができました。三者三様でも、同じ志を持つ同志として通じるものもあって、今よりもずっと”立場”というものに縛られていた時代に、こうして心を通わせることは難しく、だからこそ、大事な心の支えとなったんだろうなぁと思いました。


それにしても、冷凍保存という技術もない江戸時代に、雪の結晶を採取し図にまとめるなんて本当に大変な作業だっただろうと思います。顕微鏡で見ようと顔を近づけると、自分の吐く息で融けてしまう・・・。雪の降る日しか出来ないということは、寒さに震えながら作業する訳で、寒さとの闘いでもあったでしょうし。どんな本だったんだろう、見てみたいなぁと思ってネットで検索したら、見れました!いろんな結晶図があって、そこに尚七を始め、忠常や利位の思いや情熱が感じられて、しばし見入ってしまいました。いつか、現物が見たいものです。そんな機会があるといいなぁ・・・。





(2015.01.18 読了)




六花落々
祥伝社
西條奈加

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ラベル:読書 著者(さ)
posted by すずな at 05:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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